高校教師・・・影夫外伝・・・後編
・・・フィクションです。・・・
天候晴れ、風もなく、気温も15度すこし肌寒いが野球日和であった。
「校長挨拶!」
「え~、本日は晴天に恵まれ、誠に結構な試合日であります。
どちらもフェアプレイ精神にのっとり、全力で戦っていただきたい。」
「選手宣誓!」
「われわれは~!、フェアプレイ精神にのっとり~!○×◇◎×фζげほ!ごほ!」
「選手退場」
「父兄会会長挨拶」
「え~、会長の飯田四平です。」
「おまえが、いいだしっぺか!。」
「そうです、わたしが、いいだ しへい です。」
「だからぁ、おまえが、言いだしっぺなんだろ!。」
「そぉですぅ!、わたしぃがぁ、いいだ しへい ですうぅ!」
話が進まないので以下カット。^^
とにかく、俺たちは円陣を組んだ。
「いいか!、後悔のないように頑張れ!」
「後悔って、なんだ?。」
沖津健一が言った。
「俺たちは試合ができるだけで満足だよ、先生」
と菜九楽重雄が言った。
そうか、と俺は思った。
いままで、誰からも相手にされなかった連中が、初めて
相手にされたのだ。
それだけで満足だったのだ。
それにしても、この一週間、彼らの練習は凄かった。
本当に試合できることが嬉しかったのだろう。
「だけど先生、俺たち8人しかおらんぞ。」
海老名幸三が言った。
「それは心配ないよ。」
名取京一が答えた。
「親父が助っ人を探してくれた。」
そういえば、こちらの応援団は一目でその系と判る井出達だった。
その中に銀二がいた。
「先生、助っ人を連れてきたぞ。」
銀二の隣に小柄で痩せている頼りなげな青年がいた。
なにか眩暈がしてきた。
「彼、走れる?、野球やったことあるの?。」
「見かけで判断しちゃいけねえよ、大丈夫、俺が保障する。
・・・まぁ、野球はやったことないそうだが。」
「おい、おい、・・・」
まっ、いっか。
ということで、プレイボール!試合開始だぁ!。
先行はジャンケンに勝った正規野球部。
いよいよ正規軍vs反乱軍の戦いの火蓋が切って落とされた。
ピッチャーは郷椀、キャッチャー羽柴英夫。
一回表、郷椀は速球で三者三振に切り取った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
石炭を積んだ列車が来た。
カーブでスピードが落ちたところで、10歳の郷椀が飛び乗った。
石炭を掴むと凄いスピードで列車の外へ投げた、投げた、また投げた。
次のカーブで減速するまでの間できる限り石炭を投げた。
それが彼と彼の家族の収入であった。・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ということで、郷椀はその名のとうり、豪腕の速球ピッチャーとなった。
平均140km/hrはいく。時に150を越えた。
こいつがなんでこの同好会にいるのかよく判らん。
一回裏の攻撃。
一番バッターは分厚いメガネの厨羅武雄。
頭はいいし、成績もトップだが、運動オンチであった。
当然、三振。
二番バッター沖津健一
「おい!、かんしゃく玉外しとけ!」
「え!」
ヘルメットにかんしゃく玉をつけようとしていた手が止まって、
びっくりしたような目で俺を見た。
あっという間に三振。
三番バッター海老名幸三。
うまくセンターにはじき返した。
一塁、二塁を回ったところで、いきなりホームに突っ込んできた。
「幸三!、なにやってんだ!」
当然アウトになった。
「あ~、そっか、いままで三角ダイヤだったからな。」
そうなのだ、彼らは人数が少ないので今まで一塁、二塁とホームベース
でやっていたのが仇となった。
そんなこんなで、三回表まで0点のまま試合が続いた。
三回裏最後のバッター、助っ人くん。
「こらぁ!、なんでボールを掴む?」
この助っ人くんは、相手のピッチャーの速球をなんなく片手で取ってしまった。
「デットボール!」
が、流石にいちゃもんがつき、アウトになった。
俺は頭が痛くなってきた。
一巡すると、流石の郷椀も捉った。なんせ直球しか投げられないのだ。
それでも、ゴロでアウトを取っていた。
海老名幸三は内野ゴロを取ると大声で、
「たけお~!構えろ~!、動くなよぉ~!」
抜群のコントロールで厨羅武雄に送球した。長年の訓練の成果だった。
厨羅武雄はボールをキャッチ出来ないので、グローブを構えるだけ。
そこにうまく送球するように訓練されていた。^^
回は進み、なんとか、0対0のまま、6回の表まで来た。
郷椀もかなりヘタってきた。
ワンアウトを取った後、フォアボールで走塁者を出してしまった。
三番打者は粘り強い明智という奴だった。
ツーアウトからファールを連発。
いいかげん、疲れてきたところをサード方向へはじかれた。
ボールは助っ人のところへ転がっていった。
「お~い!、ボール投げろ~!」
「投げていいの~?」
そう言うと、助っ人はさらに遠くへボールを投げた。
「ば~か~!、こっちへなげるんだよぉぉ~!」
「あれ!?、そうなの~。」
助っ人がボールを取りに行っているうちに、一塁ランナーは
ホームイン。
撃った打者も三塁を回った。
その時、物凄いスピードでボールが返球されてきた。
外野からノーバウンドで。
羽柴英夫がタッチ!
「アウト!」
なんて凄い球を投げる奴なんだ。俺は目を丸くした。
4番打者は力んだせいか、ピッチャーフライ。
しかし、一点先行された。
6回裏、あっという間にツーアウト。俺は助っ人に言った。
「このバットで叩くんだ!。」
「この棒で?。」
「そう。」
「あっ、そ、」
そう言うと、助っ人は俺の頭を叩いた。凄い力だ。
俺の頭は身体にめり込んだ。丁度、亀が首を引っ込めた状態になった。
「・・・俺を叩くんじゃないよ、・・・ボールを叩くんだ!。」
「あっ、すみません。」
そう言うと、助っ人はバッターボックスへ向かった。
本当に野球は知らないようだ。
「うわぁ、先生、器用なことすんな。」
名取京一が胸にめり込んだ俺の顔を覗き込んで言った。
実に美しい。なにか胸がときめいてきた。・・・その手の趣味はないのだが。
後で判ったことであるが、これも鹿島麗子が俺の潜在意識に関与したためであった。
「うおぉ、本当にすげえ!。」
ニキビ顔の沖津健一が覗き込んだ。
「うぅぅぅぅ~、お前、本当に同じ高校生なのかぁぁ・・・」
その時、カキーンという金属バット特有の音がした。めり込んだ顔を引っ張り出して
見ると、助っ人がこっちを見ていた。
ホームランだった。
「叩いたよ。」
「撃ったら走れ~!」
1対1のまま、9回表。郷椀はフォアボールを連発、ノーアウト満塁となってしまった。
俺はコントロールの良い海老名幸三をピッチャーに変えた。
しかし、4番打者にセンター前ヒットを打たれた。
三塁手ホームイン!しかし、助っ人からの返球で1、2塁手アウト。
「なんとか一点に留めたいな。」
その時、
「選手交代!、南郷勇一!」
南郷勇一、知る人ぞ知る、5中のスーパーマン!。怪物!。
いよいよ本気でエースを投入してきた。
南郷は簡単にホームランを打った。3対1になってしまった。
どうにか次の打者を打ち取って、9回裏。あっという間にツーアウト。
バッターボックスに立った菜九楽重雄、何か変だ。
左ボックスに立っているが、腕が逆であった。
「おい!、重雄!おまえ、ひょっとして、左利きか?。」
「あ~、そうかも、・・・」
「なら、反対側にたってみろ」
「こうか?、あぁ、こりゃいい。」
簡単にセンター前にはじき返した。二塁打。
なんで気づかなかったんだろう。^^
「ピッチャー交代、南郷勇一」
南郷勇一もまた、豪腕ピッチャーだった。160出したとの噂もある。
打者は沖津健一。
南郷からヒットを打った者は居ないと言われている。しかし随一ヒットを打った男が居た。
風邪で調子が悪かったのだが、その男とは誰あろう、沖津健一であった。
相性というものはあると信じる。俺は期待した。
ツーストライク・ノーボール。最後の一球を投げようとした時、
「や~い、南郷、鼻水垂れてるぞ~。」
沖津健一がヤジった。
「な、なんだと!」
気が散って、すっぽ抜けた。沖津健一はファースト方向へはじいた。
菜九楽重雄、ホームイン。
外野がお手玉しているうちに、沖津健一、走る、走る、走ったぁぁぁぁ・・・
三塁を回って、ホームへ。並んでボールが返球されてきた。
滑り込みぃ~~!。
タァァッチィィィ~~!。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
春の日差しが眩しかった。
卒業式、相変わらず、国歌斉唱でもめていた。
俺はバカバカしいので抜け出して、グランドを眺めていた。
思えば、あの野球試合の死闘を繰り広げてから三ヶ月過ぎた。
結局甲子園に行くには高額の費用が掛かり、
寄付が思うように集まらなかった。
さらに言いだしっぺの飯田四平が怪我で会長を辞任し、
甲子園の話はうやむやになって、そのうち、消えた。
今でも目に浮かぶ、最後のシーンに胸が熱くなった。
沖津健一、走る、走る、走ったぁぁぁ~~~!。
タァァッチィィィ~!。
その時ヘルメットに付いていたかんしゃく玉が破裂!
相手のキャッチャーは悲鳴を上げ逃げ出した。
「反則負け~!」
あっさり負けてしまった。
同好会は解散となった。
「かんしゃく玉は止めろ、って言ったろが!。」
「全部取ったと思ったんだよ~」
タイミングとしてはセーフだった。あの後、あの助っ人の「・」くんに
繋げれば勝てた試合であった。
厨羅武雄は勉強に専念。校内トップの成績となった。
名取京一、京二兄弟は進学校に転校していった。
郷椀と羽柴英夫はバッテリーとして正規の野球部に入った。
海老名幸三はその投球コントロールを買われ、バッティングピッチャーに、
菜九楽重雄はバッティングの才能に目覚め、今や野球部の4番打者となった。
で、沖津健一だが、不登校になり、やがて退学していった。
その沖津健一から昨日手紙が来た。
夜間高校に通い始めたとあった。
なんでも、一緒に働いている労働のおっちゃんから、せめて高校は卒業
しろと説得されたようだ。
一教師が説得するより含蓄がありそうだ。
そして、手紙の最後にこう書かれていた。
「高校最後の試合は俺にとって最大の思い出だ。
この思い出を大事に俺はやっていける。」
そうだぞ、健一、たとえ、どんな思い出でも、
たとえ、辛い思い出でも、
たとえ、孤独な思い出でも、
たとえ、どんな嫌な思い出でも、
お前の青春の思い出なんだ。
その思い出があれば、どんなことがあってもやっていけるんだぞ。
俺の役目はその思い出作りを手伝うことだ。
俺の名前は毒島昭雄。
高校教師だ。
完
どうもお騒がせしました。^^
天候晴れ、風もなく、気温も15度すこし肌寒いが野球日和であった。
「校長挨拶!」
「え~、本日は晴天に恵まれ、誠に結構な試合日であります。
どちらもフェアプレイ精神にのっとり、全力で戦っていただきたい。」
「選手宣誓!」
「われわれは~!、フェアプレイ精神にのっとり~!○×◇◎×фζげほ!ごほ!」
「選手退場」
「父兄会会長挨拶」
「え~、会長の飯田四平です。」
「おまえが、いいだしっぺか!。」
「そうです、わたしが、いいだ しへい です。」
「だからぁ、おまえが、言いだしっぺなんだろ!。」
「そぉですぅ!、わたしぃがぁ、いいだ しへい ですうぅ!」
話が進まないので以下カット。^^
とにかく、俺たちは円陣を組んだ。
「いいか!、後悔のないように頑張れ!」
「後悔って、なんだ?。」
沖津健一が言った。
「俺たちは試合ができるだけで満足だよ、先生」
と菜九楽重雄が言った。
そうか、と俺は思った。
いままで、誰からも相手にされなかった連中が、初めて
相手にされたのだ。
それだけで満足だったのだ。
それにしても、この一週間、彼らの練習は凄かった。
本当に試合できることが嬉しかったのだろう。
「だけど先生、俺たち8人しかおらんぞ。」
海老名幸三が言った。
「それは心配ないよ。」
名取京一が答えた。
「親父が助っ人を探してくれた。」
そういえば、こちらの応援団は一目でその系と判る井出達だった。
その中に銀二がいた。
「先生、助っ人を連れてきたぞ。」
銀二の隣に小柄で痩せている頼りなげな青年がいた。
なにか眩暈がしてきた。
「彼、走れる?、野球やったことあるの?。」
「見かけで判断しちゃいけねえよ、大丈夫、俺が保障する。
・・・まぁ、野球はやったことないそうだが。」
「おい、おい、・・・」
まっ、いっか。
ということで、プレイボール!試合開始だぁ!。
先行はジャンケンに勝った正規野球部。
いよいよ正規軍vs反乱軍の戦いの火蓋が切って落とされた。
ピッチャーは郷椀、キャッチャー羽柴英夫。
一回表、郷椀は速球で三者三振に切り取った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
石炭を積んだ列車が来た。
カーブでスピードが落ちたところで、10歳の郷椀が飛び乗った。
石炭を掴むと凄いスピードで列車の外へ投げた、投げた、また投げた。
次のカーブで減速するまでの間できる限り石炭を投げた。
それが彼と彼の家族の収入であった。・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ということで、郷椀はその名のとうり、豪腕の速球ピッチャーとなった。
平均140km/hrはいく。時に150を越えた。
こいつがなんでこの同好会にいるのかよく判らん。
一回裏の攻撃。
一番バッターは分厚いメガネの厨羅武雄。
頭はいいし、成績もトップだが、運動オンチであった。
当然、三振。
二番バッター沖津健一
「おい!、かんしゃく玉外しとけ!」
「え!」
ヘルメットにかんしゃく玉をつけようとしていた手が止まって、
びっくりしたような目で俺を見た。
あっという間に三振。
三番バッター海老名幸三。
うまくセンターにはじき返した。
一塁、二塁を回ったところで、いきなりホームに突っ込んできた。
「幸三!、なにやってんだ!」
当然アウトになった。
「あ~、そっか、いままで三角ダイヤだったからな。」
そうなのだ、彼らは人数が少ないので今まで一塁、二塁とホームベース
でやっていたのが仇となった。
そんなこんなで、三回表まで0点のまま試合が続いた。
三回裏最後のバッター、助っ人くん。
「こらぁ!、なんでボールを掴む?」
この助っ人くんは、相手のピッチャーの速球をなんなく片手で取ってしまった。
「デットボール!」
が、流石にいちゃもんがつき、アウトになった。
俺は頭が痛くなってきた。
一巡すると、流石の郷椀も捉った。なんせ直球しか投げられないのだ。
それでも、ゴロでアウトを取っていた。
海老名幸三は内野ゴロを取ると大声で、
「たけお~!構えろ~!、動くなよぉ~!」
抜群のコントロールで厨羅武雄に送球した。長年の訓練の成果だった。
厨羅武雄はボールをキャッチ出来ないので、グローブを構えるだけ。
そこにうまく送球するように訓練されていた。^^
回は進み、なんとか、0対0のまま、6回の表まで来た。
郷椀もかなりヘタってきた。
ワンアウトを取った後、フォアボールで走塁者を出してしまった。
三番打者は粘り強い明智という奴だった。
ツーアウトからファールを連発。
いいかげん、疲れてきたところをサード方向へはじかれた。
ボールは助っ人のところへ転がっていった。
「お~い!、ボール投げろ~!」
「投げていいの~?」
そう言うと、助っ人はさらに遠くへボールを投げた。
「ば~か~!、こっちへなげるんだよぉぉ~!」
「あれ!?、そうなの~。」
助っ人がボールを取りに行っているうちに、一塁ランナーは
ホームイン。
撃った打者も三塁を回った。
その時、物凄いスピードでボールが返球されてきた。
外野からノーバウンドで。
羽柴英夫がタッチ!
「アウト!」
なんて凄い球を投げる奴なんだ。俺は目を丸くした。
4番打者は力んだせいか、ピッチャーフライ。
しかし、一点先行された。
6回裏、あっという間にツーアウト。俺は助っ人に言った。
「このバットで叩くんだ!。」
「この棒で?。」
「そう。」
「あっ、そ、」
そう言うと、助っ人は俺の頭を叩いた。凄い力だ。
俺の頭は身体にめり込んだ。丁度、亀が首を引っ込めた状態になった。
「・・・俺を叩くんじゃないよ、・・・ボールを叩くんだ!。」
「あっ、すみません。」
そう言うと、助っ人はバッターボックスへ向かった。
本当に野球は知らないようだ。
「うわぁ、先生、器用なことすんな。」
名取京一が胸にめり込んだ俺の顔を覗き込んで言った。
実に美しい。なにか胸がときめいてきた。・・・その手の趣味はないのだが。
後で判ったことであるが、これも鹿島麗子が俺の潜在意識に関与したためであった。
「うおぉ、本当にすげえ!。」
ニキビ顔の沖津健一が覗き込んだ。
「うぅぅぅぅ~、お前、本当に同じ高校生なのかぁぁ・・・」
その時、カキーンという金属バット特有の音がした。めり込んだ顔を引っ張り出して
見ると、助っ人がこっちを見ていた。
ホームランだった。
「叩いたよ。」
「撃ったら走れ~!」
1対1のまま、9回表。郷椀はフォアボールを連発、ノーアウト満塁となってしまった。
俺はコントロールの良い海老名幸三をピッチャーに変えた。
しかし、4番打者にセンター前ヒットを打たれた。
三塁手ホームイン!しかし、助っ人からの返球で1、2塁手アウト。
「なんとか一点に留めたいな。」
その時、
「選手交代!、南郷勇一!」
南郷勇一、知る人ぞ知る、5中のスーパーマン!。怪物!。
いよいよ本気でエースを投入してきた。
南郷は簡単にホームランを打った。3対1になってしまった。
どうにか次の打者を打ち取って、9回裏。あっという間にツーアウト。
バッターボックスに立った菜九楽重雄、何か変だ。
左ボックスに立っているが、腕が逆であった。
「おい!、重雄!おまえ、ひょっとして、左利きか?。」
「あ~、そうかも、・・・」
「なら、反対側にたってみろ」
「こうか?、あぁ、こりゃいい。」
簡単にセンター前にはじき返した。二塁打。
なんで気づかなかったんだろう。^^
「ピッチャー交代、南郷勇一」
南郷勇一もまた、豪腕ピッチャーだった。160出したとの噂もある。
打者は沖津健一。
南郷からヒットを打った者は居ないと言われている。しかし随一ヒットを打った男が居た。
風邪で調子が悪かったのだが、その男とは誰あろう、沖津健一であった。
相性というものはあると信じる。俺は期待した。
ツーストライク・ノーボール。最後の一球を投げようとした時、
「や~い、南郷、鼻水垂れてるぞ~。」
沖津健一がヤジった。
「な、なんだと!」
気が散って、すっぽ抜けた。沖津健一はファースト方向へはじいた。
菜九楽重雄、ホームイン。
外野がお手玉しているうちに、沖津健一、走る、走る、走ったぁぁぁぁ・・・
三塁を回って、ホームへ。並んでボールが返球されてきた。
滑り込みぃ~~!。
タァァッチィィィ~~!。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
春の日差しが眩しかった。
卒業式、相変わらず、国歌斉唱でもめていた。
俺はバカバカしいので抜け出して、グランドを眺めていた。
思えば、あの野球試合の死闘を繰り広げてから三ヶ月過ぎた。
結局甲子園に行くには高額の費用が掛かり、
寄付が思うように集まらなかった。
さらに言いだしっぺの飯田四平が怪我で会長を辞任し、
甲子園の話はうやむやになって、そのうち、消えた。
今でも目に浮かぶ、最後のシーンに胸が熱くなった。
沖津健一、走る、走る、走ったぁぁぁ~~~!。
タァァッチィィィ~!。
その時ヘルメットに付いていたかんしゃく玉が破裂!
相手のキャッチャーは悲鳴を上げ逃げ出した。
「反則負け~!」
あっさり負けてしまった。
同好会は解散となった。
「かんしゃく玉は止めろ、って言ったろが!。」
「全部取ったと思ったんだよ~」
タイミングとしてはセーフだった。あの後、あの助っ人の「・」くんに
繋げれば勝てた試合であった。
厨羅武雄は勉強に専念。校内トップの成績となった。
名取京一、京二兄弟は進学校に転校していった。
郷椀と羽柴英夫はバッテリーとして正規の野球部に入った。
海老名幸三はその投球コントロールを買われ、バッティングピッチャーに、
菜九楽重雄はバッティングの才能に目覚め、今や野球部の4番打者となった。
で、沖津健一だが、不登校になり、やがて退学していった。
その沖津健一から昨日手紙が来た。
夜間高校に通い始めたとあった。
なんでも、一緒に働いている労働のおっちゃんから、せめて高校は卒業
しろと説得されたようだ。
一教師が説得するより含蓄がありそうだ。
そして、手紙の最後にこう書かれていた。
「高校最後の試合は俺にとって最大の思い出だ。
この思い出を大事に俺はやっていける。」
そうだぞ、健一、たとえ、どんな思い出でも、
たとえ、辛い思い出でも、
たとえ、孤独な思い出でも、
たとえ、どんな嫌な思い出でも、
お前の青春の思い出なんだ。
その思い出があれば、どんなことがあってもやっていけるんだぞ。
俺の役目はその思い出作りを手伝うことだ。
俺の名前は毒島昭雄。
高校教師だ。
完
どうもお騒がせしました。^^
この記事へのコメント
「・」君って野球知らなかったんですね(笑)
実は、私もよくは知りません。(笑)
いやぁ~、感動っす。言い出しっぺに。(笑)『がんばれベア~ズ』を思い出してしまうところでした。^^お疲れ様でした。これで、ロウやら誰さんがいたら凄まじいチ~ムになるでしょうね。相手のチ~ムが全滅?(笑)
代わりにご教祖さまが入院のようです。(涙)